次のトレードから、損益の横に「入る前の気持ち」を一言だけ書いてください(「焦り」「退屈」「取り返したい」など)。1週間たったら、気持ちごとに勝ち負けを数えます。それだけで、下の見取り図のどれが自分に多いかが見え始めます。
場面ごとの見取り図
負けた後に起きやすいこと
実験では、損をした直後の人は、損を取り戻せる見込みのある賭けを選びやすい傾向が見られました。[2] 米国のシカゴ商品取引所のトレーダーを調べた研究では、午前に損をした人は、午後に平均より大きなリスクを取る傾向がありました。[3]
- 取り返したくなる: 負けた直後に、ロットを上げてすぐ入ってしまう。→ リベンジトレード(取り返しトレード)のやめ方
- 損を確定したくない: 損切りの値を遠くへずらしてしまう。→ 損切りを動かしてしまう理由と、動かす前の確認
- 「次は勝つ番」と感じる: 米国のあるカジノのルーレットの記録では、同じ結果が6回以上続いた後、85%の賭けが「続いたのと反対」に置かれていました。[4] → ギャンブラーの誤謬とは
記録での気づき方: 負けた直後(例: 30分以内)に入ったトレードの数と、そのときのロットを数えます。
連敗そのものは、勝率が同じでも回数を重ねれば自然に起きます。→ 連敗が続いた時、確率で見る
勝った後に起きやすいこと
1990年の論文は、先に得をした後にリスクを取りやすくなることを「ハウスマネー効果」と呼びました。[2]
- もうけた分だからと大胆になる: 大きく勝った後に、ロットを上げる。→ ハウスマネー効果とは
- 波に乗っていると感じる: 3連勝したから今日は勝てる、と感じる。→ ホットハンドとは
- 読みが当たると思い、回数が増える: 米国の証券会社の66,465世帯を調べた研究では、取引の多い世帯ほど、費用を引いた後の成績が低い傾向でした。[5] → 過信と取引の回数、売買しすぎに気づく数え方
記録での気づき方: 勝った後のトレードで、ロットや回数がふだんより多かった日を数えます。
いつでも起きること
- 最初に見た数字に引っぱられる(アンカリング): 回転盤で10を見た組と65を見た組では、同じ質問への見積もりの中央値が25%と45%に分かれました。[6] → アンカリングとは
- 自分の考えに合う情報ばかり集める(確証バイアス): 「上がる」と思うと、上がる話ばかり目に入る。→ 確証バイアスとは
- 同じ額でも損を重く感じる(損失回避): プロスペクト理論を示した論文は、お金を失う時のつらさは、同じ額を得る時のうれしさより大きいようだ、と書いています。[1] → 損失回避とは
記録での気づき方: エントリーの理由と一緒に「反対の材料」を1つ書けたかどうかを残し、書けなかったトレードの結果と比べます。
分かっていても、守れないのはなぜか
落ち着いている時の人は、気持ちが高ぶった時に自分がどう動くかを、低く見積もりやすい、という考え方があります(「ホット・コールドのギャップ」)。[7] だから、落ち着いている時に決めたルールが、負けた直後には守れないことがあります。くわしくはトレードのルールを決めても守れない時、記録で見えることで説明しています。
記録で確かめる3つのこと
- 1行に、気持ちとルールを書く: 損益の横に「入る前の気持ち」と「ルールを守れたか」を書きます。→ トレード日記の書き方
- 「もし〇〇になったら、△△する」を前もって決める: 場面と行動を前もって結びつけて決めておくと(実行意図)、目標の達成によい効果があったことが、多くの研究をまとめた分析で報告されています。[8] 例: 「2連敗したら、その日は終わりにする」。例であり、おすすめの数字ではありません。数字は自分で決めてください。
- 週に1回、数える: 目標への進み具合を確かめる研究をまとめた分析では、記録を残した時に、その効果は大きめでした。[9] 対象は主に健康や運動などの目標で、トレードの研究ではありません。→ 1か月のトレードの見返し方
その日の回数・損益・連敗を、自分で決めた上限と並べて見るには今日の記録カード、上限の金額を出すには損失の上限の計算が使えます。プロップファームに挑戦中なら、会社の規則にある1日の損失や最大ドローダウンの線と、今の数字を並べて記録しておくと、気持ちが高ぶった時にも線との距離が分かります。→ プロップファームの損失の上限の数え方
このページについて
ここで紹介した研究の多くは、株・先物・カジノ・実験室・健康の目標などで行われたもので、FX だけを調べたものではありません。また、多くは米国など一部の国の人を対象にした研究で、ほかの国や文化でも同じ程度に起きるとは限りません。くせがあるかどうか、どれが多いかは人によって違います。お金やトレードのことでつらい時や、やめたくてもやめられないと感じる時は、ひとりで抱えず、身近な人や、お住まいの地域の相談窓口に相談してください。
参考文献
- Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. Econometrica, 47(2), 263–291. https://doi.org/10.2307/1914185
- Thaler, R. H., & Johnson, E. J. (1990). Gambling with the House Money and Trying to Break Even: The Effects of Prior Outcomes on Risky Choice. Management Science, 36(6), 643–660. https://doi.org/10.1287/mnsc.36.6.643
- Coval, J. D., & Shumway, T. (2005). Do Behavioral Biases Affect Prices? The Journal of Finance, 60(1), 1–34. https://doi.org/10.1111/j.1540-6261.2005.00723.x
- Croson, R., & Sundali, J. (2005). The Gambler's Fallacy and the Hot Hand: Empirical Data from Casinos. Journal of Risk and Uncertainty, 30(3), 195–209. https://doi.org/10.1007/s11166-005-1153-2
- Barber, B. M., & Odean, T. (2000). Trading Is Hazardous to Your Wealth: The Common Stock Investment Performance of Individual Investors. The Journal of Finance, 55(2), 773–806. https://doi.org/10.1111/0022-1082.00226
- Tversky, A., & Kahneman, D. (1974). Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases. Science, 185(4157), 1124–1131. https://doi.org/10.1126/science.185.4157.1124
- Loewenstein, G. (2005). Hot-cold empathy gaps and medical decision making. Health Psychology, 24(4, Suppl), S49–S56. https://doi.org/10.1037/0278-6133.24.4.S49
- Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation Intentions and Goal Achievement: A Meta-analysis of Effects and Processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119. https://doi.org/10.1016/S0065-2601(06)38002-1
- Harkin, B., Webb, T. L., Chang, B. P. I., Prestwich, A., Conner, M., Kellar, I., Benn, Y., & Sheeran, P. (2016). Does monitoring goal progress promote goal attainment? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychological Bulletin, 142(2), 198–229. https://doi.org/10.1037/bul0000025