取り返しトレードとは
負けた直後に、いつもの手順を飛ばして入ってしまうトレードのことです。よくある形は次のとおりです。
- 負けた分を一度で戻そうとして、ロット(取引する量)を上げる
- いつもなら見送る場面で入る(自分のルールの条件がそろっていない)
- 損切りを広げる、または置かない
- 決済してから次に入るまでの間隔が急に短くなる
どれも、負けていなければたぶんしなかったことです。「さっき負けていなくても、これに入ったか?」が、取り返しトレードを見分ける一番分かりやすい目印です。
プロップファーム(会社の資金で取引する口座)では、1日の損失の上限や、最大ドローダウン(口座の減り幅の上限)に触れると、口座を失う(失格になる)規則を置いている会社があります。取り返しトレードは、その上限に一気に近づく形になりやすいので、特に気をつけたいところです。
なぜ起きるのか
損をした後に判断が変わりやすいことは、研究でも調べられています。
- 損は、同じ額の得より重く感じやすい。そして、確実な損を前にすると、リスクの大きい選択に傾きやすい(プロスペクト理論)。[1]
- 損の後は、「トントンに戻せる」選択に引かれやすい。実験で、損をした直後の人は、損を取り戻せる見込みのある賭けを選びやすい傾向が見られました。[2]
- プロでも起きる。米国のシカゴ商品取引所のトレーダーを調べた研究では、午前に損をした人は、午後に平均より大きなリスクを取る傾向がありました。[3]
どれも実験や先物のトレーダーを調べたもので、個人の FX トレーダーに同じ大きさで当てはまるとは限りません。言えるのは、負けた後にリスクを取りたくなるのは、意志が弱い人だけの話ではないということです。だから、その場の気合いに頼るより、前もって決めておく方が役に立つことがあります。
負ける前に決めておく5つの決めごと
「もし〜になったら、〜する」と前もって決めておく計画は、目標の達成を助けると報告されています。[4] トレードを調べた研究ではないので、効き目は人によると考えてください。下の5つは、どれも目新しいものではありません。差が出るのは、負ける前に書いておくかどうかです。数字は人それぞれなので、形だけ参考にして、ご自身の値を入れてください。
1. 1日の損失の上限を、金額で決める
「もし今日の損失が〇〇に届いたら、その日はもう入らない」。割合で決めた上限も、金額に直しておくと、その場で迷いにくくなります。損失の上限の計算で、残高と割合から1日・週・月の金額を出せます。
プロップファームの口座なら、会社が決めた1日の上限より手前に、自分の上限を置くこともできます。会社の上限に触れる前に、自分の線で止まるためです。会社の規則(何時で1日を区切るか、何を損失に数えるか)は会社ごとに違うので、ご自身の会社のものを確かめてください。
2. 連敗の上限と、その後にすることを決める
「もし〇連敗したら、30分は画面から離れる」「もし〇連敗したら、その日は終わり」。回数と、その後の行動を対にして決めます。勝率がそれなりにあっても、回数を重ねれば連敗は起きます。連敗の確率で、ご自身の勝率だと何連敗くらいが起きやすいかを見ておくと、連敗した時に慌てにくくなります。
3. ロットは、負けた後に上げない
「もし負けた直後なら、ロットは前のトレードと同じか、それより小さくする」。ロットは、1回に失ってよい額と損切りの幅から、前もって計算しておけます(ロット計算)。負けた直後に、その場で決めないことが大事です。
4. 次に入る前に、1つだけ自分に聞く
「このトレードは、さっき負けていなくても入ったか?」。答えが「いいえ」か「分からない」なら、見送ります。紙に書いてモニターの横に貼っておく人もいます。
5. 画面を離れる手順と時間を決めておく
「もし上限に届いたら、ポジションが残っていないか確かめて、取引の画面を閉じて、その日の記録を書いて終わる」。やることの順番まで決めておくと、「あと1回だけ」が入りにくくなります。仕事の前や合間に取引する人は、「出かける〇分前になったら、新しくは入らない」と時間で区切るのも1つの方法です。
- もし今日の損失が〇〇に届いたら → その日は終わり。画面を閉じる
- もし〇連敗したら → 〇分休む
- もし負けた直後なら → ロットは同じか小さく
- もし「さっき負けていなくても入ったか?」に「いいえ」なら → 見送る
- もし出かける〇分前になったら → 新しくは入らない
「取り返す」を数字で見る
口座が減った後、元の残高に戻すには、減った割合より大きな利益率が要ります。−10% なら +11.1%、−20% なら +25%、−50% なら +100% です。元に戻すのに必要な利益率で確かめられます。減るほど、取り戻すのに必要な割合は急に大きくなります。だからこそ、減り始めた日に上限で止める決めごとが効いてきます。
記録して、自分の形を知る
取り返しトレードは、本人もその場では気づきにくいものです。トレードごとに、次の3つだけでも残しておくと、後から見返せます。
- 入った時の気持ち(焦り・取り返したい・落ち着いていた、など)
- 自分のルールを守れたか(はい/いいえ)
- 直前のトレードが負けだったか
1〜2週間分たまったら、「ルールを守れたトレード」と「守れなかったトレード」で、損益や回数を比べてみてください。どんな時に崩れやすいか、自分の形が見えてきます。
参考文献
- Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. Econometrica, 47(2), 263–291. https://doi.org/10.2307/1914185
- Thaler, R. H., & Johnson, E. J. (1990). Gambling with the House Money and Trying to Break Even: The Effects of Prior Outcomes on Risky Choice. Management Science, 36(6), 643–660. https://doi.org/10.1287/mnsc.36.6.643
- Coval, J. D., & Shumway, T. (2005). Do Behavioral Biases Affect Prices? The Journal of Finance, 60(1), 1–34. https://doi.org/10.1111/j.1540-6261.2005.00723.x
- Gollwitzer, P. M. (1999). Implementation intentions: Strong effects of simple plans. American Psychologist, 54(7), 493–503. https://doi.org/10.1037/0003-066X.54.7.493