なぜ「前もって」「金額で」決めるのか
負けた後は、ふだんと同じ判断がしにくくなります。損を早く取り戻したくなり、決めていない場面で入ったり、ロット(1回の取引の量)を増やしたりしやすくなります(取り返しトレードのやめ方)。だから、上限は負ける前に決めておきます。
また、「3%まで」と割合だけで覚えていると、負けている最中に計算することになります。金額にしておけば、見るだけで分かります。
3つの入口から決める
決め方に正解はありません。次の3つの入口から考えて、自分に合う額を選びます。
1. 1回の許容損失から
1日の上限 = 1回の許容損失 × 「その日に許す負けの回数」。たとえば1回の許容損失が 100(口座の通貨)で、「3回負けたら終わり」なら、上限は 300 です。
2. 残高の割合から
1日の上限 = 残高 × 自分で決めた割合。損失の上限の計算に残高と割合を入れると、1日・週・月の金額と、何回の負けで1日の上限に届くかが出ます。
3. 暮らしから
「この額を1日で失っても、住まいや食事、家族へのお金、睡眠に響かない」と思える額です。数字の計算とは別に、自分の暮らしから見た上限も考えておきます。
3つの額を並べて、一番小さいものを1日の上限にする人もいます。どの決め方でも、決めた額は、ご自身の判断です。
- 残高 10,000(口座の通貨)、1回の許容損失 1% → 100
- 1日の上限 3% → 300(1回 100 の負けなら、3回で届く)
- 週の上限 6% → 600、月の上限 10% → 1,000
残高が 200 なら、1% は 2、3% は 6 です。残高の大きさにかかわらず、計算の形は同じです。ただ、残高が小さいと、損切りの幅によっては、業者が決めた一番小さいロットでも、1回の損が許容損失を超えることがあります(一番小さいロットは業者や口座によって違います)。数字は計算の形を見せるための例です。ご自身の手法・残高・暮らしに合わせて決めてください。
決めたら、数で確かめる
何回の負けで届くか
上限が「3回の負け」で届くなら、連敗だけでも届くことはめずらしくないかもしれません。勝率50%で、毎回の勝ち負けが互いに関係しないとすると、10回の取引のうちに3連敗以上が起きる確率は約51%、20回なら約79%です(計算の例)。連敗の確率の計算で、ご自身の勝率と回数で確かめられます。届く日があるのは、上限が働いているということでもあります。
週と月の上限も
1日の上限に何日も続けて届くと、口座は大きく減ります。週や月の上限も決めておくと、減り方に歯止めがかかります。減った後に元へ戻すには、減った割合より大きな利益率が要ります(−10% なら +11.1%、−20% なら +25%)。ドローダウンの回復の計算で確かめられます。
決めておく細かいこと
- 1日の区切り: 何時で「今日」を終えるか。夜中をまたいで取引する人は、0時で区切ると上限が2日に割れてしまいます。今日の記録カードでは、1日の始まりの時刻を選べます。週の上限を使う人は、何曜日から「今週」とするかも決めておきます。
- 何を損失に数えるか: 決済した損だけか、持っているポジションの含み損も入れるか。スプレッド・手数料・スワップ(ある口座なら)を入れるか。
- 届いた後にすること: ポジションが残っていないか確かめる、取引の画面を閉じる、その日の記録を書く、など。順番まで決めておくと、「あと1回だけ」が入りにくくなります。
「もし今日の損失が上限に届いたら → 新しくは入らない」のように、「もし〜なら〜する」の形で書いておくのが1つの方法です。
今日あといくらで上限に届くかは、今日の記録カードに上限を入れておくと、トレードのたびに見られます(額を入れた勝ちと負けを差し引いて計算します。額を入れていない取引は入りません)。
上限を変えるのは、負けた日ではなく、決めた日に
負けた日に「今日だけ上限を上げる」と、上限の意味がなくなります。変えるなら、たとえば月に1回など、取引していない時に、記録を見ながら決めます。残高が大きく変わった時も、その時に金額を計算し直します。
研究で分かっていること(短く)
- 1990年に発表された実験で、損をした直後の人は、損を取り戻せる見込みのある賭けを選びやすい傾向が見られました。[1]
- 米国のシカゴ商品取引所で米国債の先物を取引していたトレーダーの、1998年の取引を調べた研究(2005年に発表)では、午前に損をした人は、午前に利益が出た人より、午後に平均を上回るリスクを取りやすい傾向がありました。[2]
- 「もし〜なら〜する」と前もって計画を立てる方法を調べた94件の検証をまとめた分析では、目標の達成に中程度から大きい効果(d = 0.65)が見られました。対象は健康や学業などの目標で、トレードの研究ではありません。[3]
どれも1日の損失の上限そのものを調べた研究ではありません。上限を決めれば成績が良くなる、とまでは言えません。それでも、負けた後は判断が変わりやすいこと、前もって決めた計画は守りやすくなることは、研究からもうかがえます。
損が続いて苦しい時や、やめたいのにやめられないと感じる時は、一人で抱えなくて大丈夫です。多くの国や地域に、お金やのめり込みについて相談できる窓口があります。
参考文献
- Thaler, R. H., & Johnson, E. J. (1990). Gambling with the House Money and Trying to Break Even: The Effects of Prior Outcomes on Risky Choice. Management Science, 36(6), 643–660. https://doi.org/10.1287/mnsc.36.6.643
- Coval, J. D., & Shumway, T. (2005). Do Behavioral Biases Affect Prices? The Journal of Finance, 60(1), 1–34. https://doi.org/10.1111/j.1540-6261.2005.00723.x
- Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation Intentions and Goal Achievement: A Meta-analysis of Effects and Processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119. https://doi.org/10.1016/S0065-2601(06)38002-1