「追証」と「不足金」の違い: 追証(追加証拠金)は、ポジションを持ったまま証拠金が足りなくなった時に求められる追加の入金です。不足金は、決済した後に口座がマイナスになった分です。[1]
発表の時刻を知る
たとえば米国の雇用統計は、米国労働統計局の予定表で、米国東部時間の午前8時30分に発表されます。[4] 日本時間では、米国が夏時間の間は21時30分、冬時間の間は22時30分です。
夏時間の切り替えの日は、国によって違います。2026年は、英国が10月25日に、[5] 米国が11月1日に、[6] 夏時間を終えます。切り替えの前後は、国どうしの時差がふだんとずれる期間があります。その1週間に何が日本時間の何時になるかは、夏時間の切り替えで FX の時間がずれるに表でまとめています。
MT4・MT5 のチャートの時刻は、業者のサーバーの時刻で、自分の時刻とは違うことがあります。発表の時刻がチャートのどこにあたるかは、サーバー時間の換算で確かめられます。
スプレッドが広がる
スプレッドは、売る値段(Bid、ビッド)と買う値段(Ask、アスク)の差です。ある日本の FX 業者は、2025年11月、延期されていた米国の雇用関連の指標(9月分)の発表を前に、相場が急に動いた時には、カバー取引先(業者が客の注文に合わせて取引する相手の銀行)のスプレッドが大幅に広がることで、自社のスプレッドも大幅に広がるおそれがある、と客に注意しました。銀行どうしの市場で値段が出ていないと判断した時は、客への値段の配信を止める、とも書いています。[3] スプレッドが広がっている時に取引を始めると、その分だけ不利な所から始まります。
スプレッドのしくみと、発表の直前にスプレッドが広がる様子を調べた研究は、スプレッドとはの回で紹介しています。
滑る・損切りが置いた値段より悪く決まる
同じ注意書きは、成行注文や逆指値注文(決めた値段に届いたら出る注文。損切りに使う)などで、注文の値段と約定(注文が成立すること)の値段の間にかい離(スリッページ)が起きること、また注文が成立しない可能性があることも挙げています。[3] FXCM のオーストラリアの窓口の説明も、ニュースの後には値動きが急に大きくなることがあり、値段が飛ぶと、逆指値(損切り)は置いた値段より悪い値段で決まることがある、としています。[7]
ずれた金額 = ずれた値幅 × 取引した量
0.25円 × 10,000通貨 = 2,500円(作った例)
損切りは、置いた値段に届いてから決済の注文になるので、届いた時にその値段で取引できなければ、次に取引できた値段で決まります。注文の種類とずれの関係はスリッページとは、値段が飛ぶしくみは窓開け(ギャップ)とはの回で説明しています。
実際に起きた例
次の2つは、予定された指標の発表ではありませんが、値段が急に飛んだ時に何が起きたかの記録です。
- 2015年1月15日 スイスフラン: スイス国立銀行は、1ユーロ=1.20スイスフランの最低為替レートをやめ、金利を −0.75% に下げると発表しました。[8] この後の値動きで、米国の業者 FXCM は、客のマイナス残高が FXCM への借りとして約2億2,500万ドルになったと発表しました。[9] 英国の業者 Alpari UK は、多くの客が口座の残高を超える損失を出し、会社が破綻(insolvency)したと発表しました。[10]
- 2019年1月3日 円の急変: 豪州準備銀行の報告によると、目立ったニュースがない中で、シドニー時間の午前9時36分ごろ(AEDT)、円は米ドルに対して約30秒で約3%上がり、豪ドルはその約30秒後から下げ始め、円に対して、最安値の時点で約7%下がりました(その後、円と豪ドルは、米ドルに対する動きの約半分を戻しました)。スプレッドは、ふだんの約2pips から 100〜300pips に広がりました。報告は、時間帯と年末年始の時期で市場の取引がもともと薄かったこと、日本が祝日で、値段を出す役の多い日本の銀行が休みだったことを挙げています。そのうえで、高金利の通貨を買っていた日本の個人の持ち高が、損失が決めた水準を超えて自動で決済されたことが、一部の通貨の大きな下げにつながった可能性がある、としています。[11] 日本では、この日に 6,598件・9億4,300万円の「ロスカット等未収金」(ロスカットで決済された損失が、預けた証拠金を上回って出た、客が業者に払うお金)が出たと報じられました。[2]
口座がマイナスになった時の扱い
ロスカットは、値段が飛ぶと間に合わないことがあります。その時の扱いは、地域によって大きく違います。
たとえば、ある日本の FX 業者の説明は、激しい相場の急変時には、決済の損が預けている証拠金を上回り、不足金が出る場合があるとし、不足金が出た時は、決められた期限までに FX 口座へ入金するよう求めています。[1] 日本の協会の規則での扱いは、ロスカットとはの回で説明しています。
業者が客のマイナスを負担して0円にする扱いについては、金融商品取引法39条(損失補塡等の禁止)との関係が言われることが多いです。39条は、金融商品取引業者等が、顧客の損失の全部または一部を補塡するために財産上の利益を提供することなどを禁じています。[12] どう当てはまるかの公式の解釈は、この記事では確かめていません。
米国の規則は、一般の顧客(リテール)向けの FX の業者に、口座を開く前に決まった注意書きを渡すよう求めていて、その中に「預けた額より多くを失うことがある(YOU MAY LOSE MORE THAN YOU DEPOSIT)」という文があります。[13]
英国・EU・豪州では、その地域の当局の決まりで、一般の顧客(リテール)向けの CFD の口座に次の保護があります。
- EU: 欧州証券市場監督局(ESMA)が、2018年8月1日から、口座ごとのマイナス残高の保護、必要証拠金の50%での決済、主要な通貨ペアで30倍までのレバレッジを定めました(当初は一時的な措置)。[14] その後の扱いはロスカットとはの回に。
- 英国: 金融行為監督機構(FCA)が、2019年8月1日から、客が CFD の口座の資金の合計より多くを失わない決まりと、必要証拠金の50%での決済を恒久的なものにしました。[15]
- オーストラリア: 証券投資委員会(ASIC)が、2021年3月29日から、一般の顧客の CFD の損失を口座の資金までに限りました。主要な通貨ペアのレバレッジは30倍までです。[16]
ここに挙げていない国・地域では、また別の決まりがあります。
「ゼロカット」(口座のマイナスを0円にする扱い)を掲げる業者もあります。業者が掲げるゼロカットはその会社の約束で、上の英国・EU・豪州のような、決まりで定められた保護とは別のものです。業者自体が破綻することもあります(2015年の Alpari UK)。[10] この記事では、業者の比較や紹介はしません。
プロップファーム(審査に通ると会社の資金で取引できるしくみ)の審査用や資金の口座は、一般の顧客(リテール)向けのふつうの口座とは別の契約のことがあり、上の保護の対象かどうかは、その会社の規約と当局の決まりで確かめる必要があります。また、1日の損失の上限があるルールでは、損切りが滑ると、上限を一気に超えることがあります。
業者が日本で登録しているかどうかは、自分で確かめてください。金融庁は、登録せずに金融商品取引業を行い、警告を受けた者の名前を公表しています。[17](金融庁に登録していない業者のリスク)
自分で確かめておくこと
- 発表の時刻: 自分の時刻と、チャートのサーバーの時刻で、いつにあたるか
- 業者の注意: 指標の前後のスプレッドや約定について、業者が何と書いているか
- 口座がマイナスになった時の扱い: 不足金を払う決まりか、マイナス残高の保護があるか(約款の「不足金」「ロスカット」の項目)
- 今の余裕: 今のポジションで、どれくらい値段が動くとロスカットになるか(ロスカットまでの距離)。ロスカット水準は、業者が決めた「自動で決済される口座のお金の割合」です
- プロップファームの規約: 使っている人は、指標の前後の取引について、規約に決まりがあるか
自分の取引で、ずれを数える
発表の前後にどれくらいずれるかは、業者・口座・発表で違うので、一般の数字よりも、自分の取引の記録が手がかりになります。取引のたびに、注文した値段(損切りなら置いた値段)と、実際に決まった値段を並べて残しておくと、差を数えられます。
ずれ(pips) = (決まった値段 − 注文の値段) ÷ 1pips の幅
買い: プラスなら不利/売り: マイナスなら不利
発表の前後の取引と、ふだんの取引で分けて数えると、自分の口座でどれくらい違うかが見えてきます。pips を金額にするにはpips の計算、MT5 の履歴で決まった値段を見る方法はMT4・MT5 の履歴で振り返るの回にあります。その数字を見て、発表の時にどうするかを決めるのはご自身です。
参考文献
- 日本の FX 業者の説明. 追加証拠金・ロスカット(FX お取引のご案内). https://www.rakuten-bank.co.jp/assets/fx/otcfx/rule/manage.html
- ザイFX!. (2019年1月29日). フラッシュクラッシュのロスカット等未収金は過去3番目の規模! 25%がくりっく365から発生. https://zai.diamond.jp/articles/-/308596
- 日本の FX 業者の注意書き. (2025年11月19日). 米国雇用関連指標および取引に関する注意事項について. https://min-fx.jp/press/20251119-1/
- U.S. Bureau of Labor Statistics. Schedule of Releases for the Employment Situation. https://www.bls.gov/schedule/news_release/empsit.htm
- GOV.UK. When do the clocks change? https://www.gov.uk/when-do-the-clocks-change
- National Institute of Standards and Technology (NIST). Daylight Saving Time (DST). https://www.nist.gov/pml/time-and-frequency-division/popular-links/daylight-saving-time-dst
- FXCM Australia. Execution: There was a gap in the market and I lost more than my stop loss. How did this happen and will I be refunded? https://www.fxcm.com/au/help/execution-there-was-a-gap-in-the-market-and-i-lost-more-than-my-stop-loss-how-did-this-happen-and-will-i-be-refunded/
- Swiss National Bank. (2015, January 15). Swiss National Bank discontinues minimum exchange rate and lowers interest rate to −0.75%. https://www.snb.ch/en/publications/communication/press-releases/2015/pre_20150115
- FXCM. (2015, January). FXCM Comments on Swiss Franc Movement(Mondo Visione に転載された発表文). https://mondovisione.com/media-and-resources/news/fxcm-comments-on-swiss-franc-movement-2015116/
- Alpari (UK). (2015, January 16). Alpari: Important Announcement(Mondo Visione に転載された発表文). https://mondovisione.com/media-and-resources/news/alpari-important-announcement-2015116/
- Reserve Bank of Australia. (2019, February). Box B: The Recent Japanese Yen Flash Event. Statement on Monetary Policy. https://www.rba.gov.au/publications/smp/2019/feb/box-b-the-recent-japanese-yen-flash-event.html
- 金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第三十九条(損失補塡等の禁止). e-Gov 法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000025
- 17 CFR § 5.5 Distribution of "Risk Disclosure Statement" by retail foreign exchange dealers, futures commission merchants and introducing brokers. Legal Information Institute(Cornell Law School). https://www.law.cornell.edu/cfr/text/17/5.5
- European Securities and Markets Authority. (2018, June 1). ESMA adopts final product intervention measures on CFDs and binary options. https://www.esma.europa.eu/press-news/esma-news/esma-adopts-final-product-intervention-measures-cfds-and-binary-options
- Financial Conduct Authority. (2019, July 1). FCA confirms permanent restrictions on the sale of CFDs and CFD-like options to retail consumers. https://www.fca.org.uk/news/press-releases/fca-confirms-permanent-restrictions-sale-cfds-and-cfd-options-retail-consumers
- Australian Securities and Investments Commission. (2020). 20-254MR ASIC product intervention order strengthens CFD protections. https://asic.gov.au/about-asic/news-centre/find-a-media-release/2020-releases/20-254mr-asic-product-intervention-order-strengthens-cfd-protections/
- 金融庁. 無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について. https://www.fsa.go.jp/ordinary/chuui/mutouroku.html