含み損が増えると起きること
たとえば、10万円を預けて取引を始め、そのポジションを持つのに必要なお金(必要証拠金)が4万円だったとします。含み損が増えるほど、口座に残るお金は減っていきます。
この%を証拠金維持率と呼びます(残っているお金 ÷ 必要証拠金 × 100)。図の例では、含み損が8万円になって残りが2万円になると、維持率は50%です。預けた10万円の8割を失った所で、決済されることになります。
- 維持率が決められた水準を下回ると、ロスカットが始まります。日本の協会の規則も、ロスカットの水準を「必要証拠金に対する、実際に預けているお金の割合(%)」で決めています。[1]
- 水準の手前で知らせが来る口座もあります(マージンコール)。
言葉の意味や計算は証拠金・有効証拠金・維持率とはの回で説明しています。今の口座からロスカットまでどれくらい値動きの余裕があるかは、ロスカットまでの距離のツールで計算できます。
国・地域の決まりの違い
ロスカットの水準や、預けた額を超えた損失の扱いは、決まりによって違います。公表されている決まりの一部を並べます。欧州連合・英国・オーストラリアの決まりは一般の顧客(リテール)向けです。日本は協会の規則が業者の「顧客」について定めたものです。
決済: 口座の資金と含み損益の合計が、必要な証拠金の半分を下回ったら決済する。[2]
超えた損失: 負う損失は、その口座の資金までに限る。[2]
2018年に欧州証券市場監督局が出した一時的な決定で、FX を含む CFD(差額だけをやりとりする取引)が対象です。[2] 2019年から2020年にかけて、EU の各国の当局が自国の決まりを設けて置き換えました。[7]
決済: 資金が、ポジションを保つのに必要な証拠金の50%まで下がったら決済する。[3]
超えた損失: 口座の資金より多くを失わないよう保護する。[3](2019年に恒久的な決まりに)
業者がつぶれた時: 対象の投資の業者がつぶれてお金を返せない時は、金融サービス補償機構(FSCS)が1人・1社あたり最大8万5,000ポンドまで払うことがある。値動きによる損は対象外。[9]
苦情: まず業者に出す。答えに納得できない時や、多くの苦情で8週間たっても答えが無い時は、金融オンブズマン(FOS)に無料で持ち込める。[10]
決済: 業者ごとの決済の仕組みをそろえ、お金の全部かほとんどを失う前に決済する。[4] 口座の純資産が、持っているポジションの当初証拠金の合計の50%を下回ったら、市場の状況が許す限りすぐに、ポジションを1つ以上決済しなければならない。[8]
超えた損失: 損失は口座の資金までに限る。[4](2021年3月29日から)
苦情: ASIC は、紛争解決の決まりの対象の業者はオーストラリア金融苦情機関(AFCA)に加入しなければならず、AFCA は業者が社内で解決できなかった苦情を扱える、としている。[11] 頼る前に、その業者が AFCA に加入しているか確かめる。
決済: 水準は業者が決めるが、原則として不足が出ないように、レバレッジ×0.6(%)を下回らない範囲で決める(25倍なら15%以上)。口座の資金が取引額の4%以下(レバレッジ25倍以上にあたる)になる時は、口座を確かめる間隔は原則1分以内。[1]
超えた損失: 足りない分は「ロスカット未収金」として、顧客が業者に払うお金になる。[1]
ここに挙げていない国・地域では、また別の決まりがあります。同じ国でも、業者や口座の種類によって水準は違い、業者がどの国・地域の当局に登録しているかによっても、当てはまる決まりが変わることがあります。こうした決まりの外にいる業者では、ここに挙げた保護が無いこともあります。自分の口座については、次のように確かめられます。
- 業者のサイトや口座の説明で、「ロスカット」「ロスカット水準」「マイナス残高」といった言葉を探す
- 約款(契約の決まりを書いた書類)の、ロスカットや不足金の項目を読む
- 分からなければ、業者の問い合わせ窓口に聞く
日本の協会の規則は、業者がロスカットの水準や仕組みを、あらかじめ顧客に十分に説明するよう定めています。[1]
ロスカットが間に合わない時
ロスカットは、水準に届いたら必ずその値段で決済される、というものではありません。値段が一気に飛ぶと、決済は飛んだ先の値段になります。
日本の協会の規則も、ロスカットが行われる場合でも、預けた証拠金を上回る損失が出る可能性があることを、業者があらかじめ顧客に説明するよう定めています。[1] 週明けなどに値段が飛ぶしくみは、窓(ギャップ)とはの回で説明しています。
実際に起きた例があります。スイス国立銀行は、「1ユーロが1.20スイスフランより安くならないようにする」という方針をとっていましたが、2015年1月15日に、これをやめると発表しました。[5] この後の大きな値動きで、米国の FX 業者 FXCM は、顧客が大きな損失を出し、顧客が FXCM に払うべきマイナス残高が約2億2,500万ドルになった、と発表しています。[6]
預けた額を超えた損失の扱い
損失が、口座に預けたお金を超えた場合の扱いは、大きく2つに分かれます。
- 足りない分を払う: 残高がマイナスになり、その分を業者に払う必要がある扱いです。日本の協会の規則では、これを「ロスカット未収金」と呼んでいます。[1]
- マイナス残高保護: 損失を、口座のお金までに限る扱いです。英国とオーストラリアでは一般の顧客(リテール)向けの決まりです。欧州連合では2018年の決定で定められ、2019年から2020年にかけて各国の決まりに置き換わりました。[2][3][4][7]
自分で確かめておくこと
- 自分の口座のロスカットの水準: 何%で決済されるか、知らせが来る水準はあるか
- 預けた額を超えた損失の扱い: マイナス残高保護があるか、不足を払う決まりか
- 今の余裕: 今のポジションで、どれくらい値段が動くとロスカットになるか(ロスカットまでの距離)
- 値段が飛びやすい時間: 週末をまたいでポジションを持つか、大きな発表の前後か
ロスカットは業者が決めるしくみで、損切りは自分で出す注文です。1日にどこまで損をしてよいかは1日の損失上限で、1回の取引の量はロット計算で確かめられます。どうするかを決めるのはご自身で、この記事では決めません。
参考文献
- 一般社団法人 金融先物取引業協会. (2011年1月26日制定、2020年6月17日一部改正、同年12月1日施行). 金融先物取引業務取扱規則第25条の3に関する細則(外国為替証拠金取引に係るロスカット取引関係). https://www.ffaj.or.jp/wp-content/uploads/2019/06/ffaj-gyotori25_3-saisoku-20200617.pdf
- European Securities and Markets Authority. (2018). Notice of ESMA's Product Intervention Decisions in relation to contracts for differences and binary options (ESMA35-43-1135、2018年5月22日の決定). https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/library/esma35-43-1135_notice_of_pi_decisions_on_cfds_and_binary_options.pdf
- Financial Conduct Authority. (2019, July 1). FCA confirms permanent restrictions on the sale of CFDs and CFD-like options to retail consumers. https://www.fca.org.uk/news/press-releases/fca-confirms-permanent-restrictions-sale-cfds-and-cfd-options-retail-consumers
- Australian Securities and Investments Commission. (2020). 20-254MR ASIC product intervention order strengthens CFD protections. https://www.asic.gov.au/about-asic/news-centre/find-a-media-release/2020-releases/20-254mr-asic-product-intervention-order-strengthens-cfd-protections
- Swiss National Bank. (2015, January 15). Swiss National Bank discontinues minimum exchange rate and lowers interest rate to –0.75%. https://www.snb.ch/public/asset/en/www-snb-ch/publications/communication/press-releases/2015/pre_20150115/publications0_en/pre_20150115.en.pdf
- FXCM. (2015, January). FXCM Comments on Swiss Franc Movement(Mondo Visione に転載された発表文). https://mondovisione.com/media-and-resources/news/fxcm-comments-on-swiss-franc-movement-2015116/
- European Securities and Markets Authority (ESMA). Product intervention. https://www.esma.europa.eu/investor-corner/product-intervention
- Australian Securities and Investments Commission. (2020). Explanatory Statement, ASIC Corporations (Product Intervention Order—Contracts for Difference) Instrument 2020/986(2020年10月23日登録). Federal Register of Legislation. https://legislation.gov.au/F2020L01338/asmade/2020-10-23/es/original/pdf
- Financial Services Compensation Scheme (FSCS). Investments. https://www.fscs.org.uk/what-we-cover/investments/
- Financial Ombudsman Service. How to complain. https://www.financial-ombudsman.org.uk/consumers/how-to-complain
- Australian Securities and Investments Commission. Dispute resolution. https://asic.gov.au/regulatory-resources/financial-services/dispute-resolution/