先に、10の数字を並べる
当局のページや論文を開いて、数字・対象・期間・定義を確かめられた物だけを載せています。確かめられなかった物は載せていません(最後の「使わなかった数字」に書きました)。表の並びに意味はなく、どの国・地域の数字が良い・悪いという並びではありません。数字は、書かれた年のもので、今の割合ではありません。
表1 業者のデータを数えた数字(当局の資料)
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| 出どころ(国・地域) | 商品 | 数えた対象 | 期間 | 「損」の決め方 | 数字 |
|---|---|---|---|---|---|
| FCA の協議文書 CP18/38(英国、2018年)[3] | CFD(差金決済取引) | 業者の「動いている」リテール(一般の個人)口座。7社(英国のリテール CFD 市場の約65%)が出したリスク警告の加重平均 | 書かれていない | 各社の警告の数字をそのまま使う。定義はこの文書には書かれていない | 約78%の口座が損 |
| ESMA の発表(EU、2018年3月27日)[1] | CFD(通貨ペアも含む) | リテールの口座。各国の当局の分析を集めた範囲 | 書かれていない | 書かれていない | 74〜89%の口座が「たいてい」損(国ごとの幅)。顧客あたりの平均の損は1,600〜29,000ユーロ |
| EU 加盟国4か国(アイルランド・キプロス・スペイン・ポーランド)。ASIC の文書が表にしたもの[5] | CFD | 表の見出しは「損の割合」。口座か人かは書かれていない | アイルランド 2013〜14年と2015〜16年、キプロス 2017年1月1日〜8月31日、スペイン 21か月(2015年前半〜2016年後半)、ポーランド 2016年と2017年 | 書かれていない | アイルランド 75%・74%、キプロス 76%、スペイン 82%、ポーランド 79%・80% |
| ASIC の報告書 REP 626 と協議文書 CP 322(豪州、2019年)[4][5] | CFD(うち「マージン FX」と、そのほかの CFD) | 顧客(人か口座かの数え方は書かれていない)。57社の業者が申告したデータ | 業者が選んだ、2016年1月1日〜2017年6月30日の中の任意の12か月 | 「お金を失った」。細かい定義はこの2つの文書には書かれていない | マージン FX 63%、そのほかの CFD 72%(バイナリーオプションは約80%) |
| 金融先物取引業協会(FFAJ)会報 NO.114 に載った岩壷健太郎氏の論文(日本、2017年)[10] | 店頭 FX(協会の会員業者) | 口座。毎月1,000口座を無作為に選んだ標本 | 2015年の1年間(月ごとに計算) | 月ごとの実現損益の収益率(スワップ込み)。最も高い5%と低い5%は除いた。月初にポジションがない、月に1回以上取引した口座だけ | 平均は約-2.9%でマイナス。1年分の月ごとの値をまとめると半分以上がプラス(中央値は約0.008%) |
| FFAJ の四半期のデータ。金融庁の検討会の資料に載った岩壷氏のスライド(日本、2018年)[11] | 店頭 FX | 口座。増えた口座と減った口座の割合 | 四半期ごと。年度(日本は4月始まり)の四半期。2015年度第1四半期〜2017年度第3四半期の11回 | 入出金を調整した後の、実現損益・評価損益の増減・スワップの合計で、口座の資金が実質的に増えたか減ったか。変わらなかった口座は除く | 減った口座は47.48%〜75.74%、増えた口座は24.26%〜52.52%(四半期によって大きく違う) |
| CFTC の消費者向けの注意(米国)[6] | 登録された業者の店頭外国為替取引 | 業者が開示した「非裁量」の口座 | 2021年第2四半期〜2022年第1四半期 | 四半期ごとに、業者が決まりに従って計算(下の「何を損と数えたか」の表を参照)。ここでの「過去1年」の集計のしかたは書かれていない | 顧客の約3分の1が利益、約3分の2が損 |
表2 人を数えた数字(研究とアンケート)
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| 出どころ(国・地域) | 商品 | 数えた対象 | 期間 | 「損」の決め方 | 数字 |
|---|---|---|---|---|---|
| Barber ほか「The Cross-Section of Speculator Skill」(台湾、2011年のワーキングペーパー)[14] | 台湾の取引所の株 | デイトレードをした個人(平均の年で約36万人)。13%は、年間のデイトレ売買額が60万台湾ドル以上の人に限った値 | 1992〜2006年。年ごとに計算 | 手数料と取引税を引いた後の、その年のデイトレの損益 | ある年に、費用を引いた後の利益がプラスの人は約13%、市場の動きを除いた超過収益がプラスの人は約15%(決め方が違う)。前年の成績上位約1,000人(1%未満)のグループだけが、翌年も費用を引いた後で安定して市場を上回った |
| FFAJ の実態調査(日本、2018年4月)。岩壷氏の解説[12] | FX | 今 FX をしている20〜70代の1,000人(自己申告のアンケート)。性別・年代の構成を先に決めて選んだ | 2017年の1年間 | 本人が答えた、年間の損益 | 利益が出た人は60.3% |
| Chague・De-Losso・Giovannetti「Day Trading for a Living?」(ブラジル、2020年のワーキングペーパー)[13] | 株式の先物 | 2013〜2015年にデイトレを始め、少なくとも300日続けた個人 | 300日以上 | お金を失った(アブストラクトの書き方。細かい定義は本文を確認していない) | 97%が損。0.4%だけが、銀行の窓口係より多く稼いだ(1日54米ドル超) |
表を見ると、「損」の割合が数字ごとに違うのは当然です。口座を数えたのか、300日続けた人だけを数えたのか、アンケートに答えた人を数えたのかで、数える集団そのものが違うからです。次に、読む時の注意を4つ挙げます。
読み方の注意
1. 誰を数えたか。口座か人か、続けた人だけか
- 口座と人は別です。EU や英国の数字は「口座」の割合です。1人が複数の口座を持つことも、口座を作って使わないこともあります。豪州の数字は「顧客」の割合です。
- 続けた人だけを数えた数字があります。ブラジルの97%は、デイトレを始めて300日以上続けた人の中の割合です。やめた人は含まれていません。日本のアンケートも「今 FX をしている人」への質問なので、やめた人は含まれません。続けた人だけを見ると、実際の姿とずれることがあります(生存者の偏り)。
- ある時点の口座には、これからやめていく人も入ります。岩壷氏は別の資料で、未熟な投資家がスキャルピングに多く、市場から退出していくので、スキャルの平均収益率は低いという可能性も高い、と推測しています。[11]
- 自己申告のアンケートは、業者のデータとは別の物です。日本のアンケートの60.3%は、本人が答えた損益です。同じ日本の店頭 FX でも、口座のデータから数えた表1の数字(減った口座が四半期ごとに47〜76%)とは、対象も数え方も違います。
- 豪州の ASIC の報告書は、豪州の免許を持つ業者の顧客の83%が豪州の外にいる、と書いています(2019年の調査)。[4] 「豪州の当局の数字」は、豪州に住む人の数字とは限りません。
2. 何を「損」と数えたか
当局が業者に開示を求める時の数え方でも、決まりが違います。
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| 決まりの出どころ | 数える単位と期間 | 損の決め方 |
|---|---|---|
| EU(ESMA の2018年の決定の付属書)[2] | 業者ごとの、リテール顧客の CFD 取引口座。3か月ごとに計算し、直前の12か月を見る | 期間中の、実現と含みの純損益の合計がマイナスの口座。手数料などの費用を含める。期間中に建玉(持っている CFD)がなかった口座、CFD 以外の損益、入出金は除く |
| 米国(CFTC の規則 5.5(e) と 5.18(i)。NFA の解釈通知 9053)[7][8][9] | 業者ごとの、「非裁量」の個人の外国為替の口座。四半期ごと | 実現と含みの損益に、手数料などを引き、利息などを足す。入出金は除く。結果がゼロかマイナスなら「利益ではない」口座 |
| 豪州(ASIC の2019年の協議文書 CP 322 の案)[5] | 業者のリテール顧客の CFD 取引口座。12か月 | 案では、12か月に損失が出た口座の割合を開示する。現在の命令の文言は、この記事では確かめていません |
違いが数字に影響します。期間が3か月か12か月かで、口座の割合は変わります。表1の日本の四半期のデータでも、減った口座の割合は四半期によって47%台から75%台まで動いていました。含み損益を入れるか、手数料やスワップを入れるか、ゼロをどちらに入れるかでも変わります。2018年の EU の決定は、業者ごとの数字を出すことを求めています。一方、ESMA の標準の警告文の「74〜89%」は、業者に開示できる自社の数字がない場合に使う文で、各国の分析にもとづく幅です。[1][2]
3. 平均と分布は別の話
- 日本の2015年の口座データでは、月ごとの収益率の平均はマイナスなのに、中央値はわずかにプラスでした。[10] 分布が左(マイナス側)に長く伸びている時に起きます(この論文でも、月ごとの分布は左にふくらんでいました)。「半分以上の人がプラス」と「全体のお金は減っている」は、両方ありえます。
- 「損をした人の割合」は、損の大きさを教えてくれません。ESMA のページには、顧客あたりの平均の損が1,600〜29,000ユーロと書かれています。[1] 割合と金額は、別の数字です。
- 台湾の研究では、ある年に費用を引いた後の利益がプラスの人が約13%(年間のデイトレ売買額が60万台湾ドル以上の人に限った値)、市場の動きを除いた超過収益がプラスの人が約15%いました。2つは決め方が違います。一方で、前年の成績上位約1,000人(1%未満)のグループだけが、翌年も費用を引いた後で安定して市場を上回りました。[14] 「ある年に勝った人」と「続けて勝てる人」は、別の集団です。
4. 期間と、商品と、国で変わる
- 期間: 日本の口座データでは、減った口座の割合が四半期で47%台〜75%台と、大きく動いていました(増えた口座は24.26%〜52.52%)。[11] 相場の状況によって、1つの国・1つの商品でも数字は変わります。
- 商品: CFD、店頭 FX、株、株式の先物は別の商品です。豪州の数字も、マージン FX は63%、そのほかの CFD は72%と、同じ報告書の中で違います。[5] 株の研究の結果を FX にそのまま当てはめることはできません。
- 国と規制: レバレッジの上限、広告の決まり、業者の開示の決まりは、国・地域で違います(国・地域ごとのレバレッジの上限)。この記事の表も、確かめられた国・地域だけです。アジア・アフリカ・中南米の多くの国の数字は、確かめられていません。
- 調べた目的: 規制を決める根拠として当局が集めた数字は、規制の前の状況を示します。規制のあとに数字がどう変わったかは、この表からは分かりません。
この数字から、言えないこと
- 「自分も損をする」とは言えません。表の数字は、ある集団の割合です。1人1人の結果を決める確率ではありません。
- 「自分は大丈夫」とも言えません。損をした人の割合が低い数字(日本のアンケートでは、利益が出た人が60.3%)でも、答えたのは「今続けている人」だけの可能性があります。
- 「だからやめた方がいい」「だから続けるべき」とも言えません。決めるのはご自身で、この記事は売買も、業者も、勧めません。
- 業者の比べ方も、この記事は扱いません。業者が出す自社の数字は、その会社の顧客の構成や期間に左右されるからです。
自分の数字は、自分の記録で数える
世間の数字は、自分の数字の代わりになりません。自分のことは、自分の記録で数えられます。当局の決め方を借りると、他の数字と同じ物差しで数えられます。
- 期間を決める: 1か月、または3か月、12か月。
- 入出金を除く: 期間の損益 = 期間の終わりの残高 − 期間の始めの残高 − 入金 + 出金。
- 費用を含める: 残高で見れば、スプレッド・手数料・スワップは入っています。含み損益を入れるかどうかは、先に決めておきます。
- ゼロの扱いを決める: ゼロを「損でない」とするか、「利益でない」とするか。
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| 期間 | 始めの残高 | 入金 | 終わりの残高 | 期間の損益 |
|---|---|---|---|---|
| 3か月 | 100,000 | 50,000 | 130,000 | -20,000 |
(作った数字の例です。通貨は口座の通貨で同じです。)残高は100,000から130,000へ増えて見えますが、50,000を入金しているので、期間の損益は 130,000 − 100,000 − 50,000 = -20,000 です。入金を除かないと、損を利益と読み違えます。
数えた月数が少ないうちは、偶然の偏りかもしれません。勝率の見方は勝率は何回分の記録で信じられるか、取引の多さと成績の研究は自信過剰と取引の多さ、1か月の見返し方は1か月の記録の見返し方にあります。記録のつけ方はトレード日記に何を書くかで、他の投資との違いはFXとほかの投資の違いで扱っています。損益の一覧から平均損益や最大の下げ幅を出すには取引履歴の統計、記録の表のひな形はトレード日記のテンプレートが使えます。
Tiltnote では、トレードごとの損益、ルールを守れたか、そのときの気持ちを残せます。記録は自分の数字を数える材料です。
使わなかった数字
- ASIC の報告書にある、英国の FCA・キプロスの CySEC・ポーランドの KNF・イタリアの CONSOB の数字のうち、バイナリーオプションの数字は、FX の記事なので使いませんでした。
- CFTC の「約3分の1」以外の米国の数字(各業者が開示する数字)は、業者ごとの比較になるので載せませんでした。
- インドの SEBI の調査、Barber と Odean(2000年)の米国の株の研究は、この記事では開いていません(後者は自信過剰と取引の多さで扱っています)。
- Barber ほかの論文は、雑誌に載った版(2014年)ではなく、ワーキングペーパー(2011年5月)を開きました。雑誌版の数字は、この記事では確かめていません。
このページについて
この記事は、投資の助言でも、売買の勧めでもありません。紹介した数字は、書かれた年・国・商品の物で、今の割合や、ご自身の結果を示すものではありません。お金やトレードのことでつらい時や、やめたくてもやめられないと感じる時は、ひとりで抱えず、身近な人や、お住まいの地域の相談窓口に相談してください。
参考文献
- European Securities and Markets Authority. (2018年3月27日). ESMA agrees to prohibit binary options and restrict CFDs to protect retail investors. https://www.esma.europa.eu/node/84933
- European Securities and Markets Authority. (2018). Notice of ESMA's Product Intervention Decisions in relation to contracts for differences and binary options (ESMA35-43-1135、2018年5月22日の決定。付属書 II「Risk warnings」). https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/library/esma35-43-1135_notice_of_pi_decisions_on_cfds_and_binary_options.pdf
- Financial Conduct Authority. (2018). CP18/38 Restricting contract for difference products sold to retail clients and a discussion of other retail derivative products(段落 2.9 と脚注 6〜8). https://www.fca.org.uk/publication/consultation/cp18-38.pdf
- Australian Securities and Investments Commission. (2019年8月). Report 626 Consumer harm from OTC binary options and CFDs. https://download.asic.gov.au/media/5241548/rep626-published-22-august-2019.pdf
- Australian Securities and Investments Commission. (2019年8月). Consultation Paper 322 Product intervention: OTC binary options and CFDs(段落 43、89〜93 と表 1). https://download.asic.gov.au/media/5241542/cp322-published-22-august-2019.pdf
- Commodity Futures Trading Commission. Customer Advisory: Eight Things You Should Know Before Trading Forex(脚注 1). https://www.cftc.gov/LearnAndProtect/AdvisoriesAndArticles/CustomerAdvisory_MustKnowForex.html
- National Futures Association. Interpretive Notice 9053(四半期の報告). https://www.nfa.futures.org/rulebooksql/rules.aspx?RuleID=9053&Section=9
- 17 CFR § 5.5 (Risk disclosure statement)(Legal Information Institute 版). https://www.law.cornell.edu/cfr/text/17/5.5
- 17 CFR § 5.18(i) (Required disclosures. Profitable accounts の計算)(Legal Information Institute 版). https://www.law.cornell.edu/cfr/text/17/5.18
- 岩壷健太郎. (2017). FX証拠金取引の投資戦略とパフォーマンス ―保有期間・リスクと収益率の関係―(寄稿論文). 金融先物取引業協会 会報 NO.114(2017年10月). https://www.ffaj.or.jp/wp-content/uploads/2019/06/ffaj-kaihou114-i.pdf
- 岩壷健太郎. (2018年3月29日). 店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会 資料4(金融庁). https://www.fsa.go.jp/news/29/singi/20180329-1/04.pdf
- 岩壷健太郎. (2018年9月27日). FX取引に関する顧客アンケート結果を踏まえて(金融先物取引業協会 2018年4月の実態調査の紹介). https://www.ffaj.or.jp/wp-content/uploads/2018/09/20180927_hyouron.pdf
- Chague, F., De-Losso, R., & Giovannetti, B. (2020年2月). Day trading for a living? FGV EESP Textos para discussão 525(ワーキングペーパー。アブストラクトを確認). https://econpapers.repec.org/RePEc:fgv:eesptd:525
- Barber, B. M., Lee, Y.-T., Liu, Y.-J., & Odean, T. (2011年5月). The Cross-Section of Speculator Skill: Evidence from Day Trading(ワーキングペーパー。雑誌版は Journal of Financial Markets, 2014、本文は確認していません). https://faculty.haas.berkeley.edu/odean/papers/day%20traders/Day%20Trading%20Skill%20110523.pdf