先に要点
- 一晩眠らなかった後の実験では、危険のある選択の「選び方」が変わったという報告があります。ただ、損を嫌う度合い(損失回避)は、2つの実験のどちらでも変わりませんでした。[1][2]
- 実際の借り入れのデータを使った研究では、睡眠が足りない条件で、朝に申し込まれた借り入れの返せなくなる危険が高かったと報告されています。[3] ただし対象はトレーダーではなく、一人ひとりの睡眠を測った研究でもありません。
- 睡眠不足がトレードの成績やルール違反を増やすことを、直接示した研究は、この記事で調べた範囲では見つかりませんでした。だから、自分に当てはまるかは、自分の記録で確かめます。
一晩眠らないと、選び方が変わる(実験)
次の2つの実験では、若い健康な人に、よく眠った日と、一晩眠らなかった次の朝の2回、同じお金の選択の課題をしてもらいました(同じ人どうしで比べる実験)。
2011年の実験(29人): 一晩眠らなかった後は、損を防ぐことより、大きな得を狙う方向へ、選び方が移ったと報告されています。一方で、損を嫌う度合いを表す数値には、はっきりした違いはありませんでした。[1]
2015年の実験(29人。損失回避の分析は17人): 一晩眠らなくても、危険や不確かさの好み、損を嫌う度合いは変わらなかった、と報告されています。変わったのは選び方で、得の場面で、期待できる金額より「勝つ確率」を手がかりにしやすくなりました。[2]
言えること: 一晩眠らないと、少なくとも実験の課題では、選択のしかたが変わることがある。
言えないこと: 「寝不足だと危険を取りすぎる」とまでは言い切れません。2つの実験でも、危険の好みの結果は同じではありませんでした。どちらも若い健康な人の、一晩まるごと眠らない条件で、人数も多くありません。毎日少しずつ短い睡眠や、トレードの場面は調べていません。
実際の借り入れのデータでは(2026年の研究)
2026年に Management Science に載った研究は、アメリカのオンラインの個人向け融資の申し込みのデータを使いました。[3] 一人ひとりの睡眠を測ったのではなく、時間帯(タイムゾーン)の境目の、日の入りが遅い側に住む人は、寝る時間が遅く、睡眠が短くなりやすいことを利用して比べています。夏時間の切り替えも使って、確かめています。
その結果、睡眠が足りない条件では、借りた人が返せなくなる危険が高く、特に朝に申し込まれた借り入れで強かった、と報告されています。著者は、借り入れをよく考えずに決める(手っ取り早い決め方に頼る)ことが増えるためではないか、と考えています。
言えないこと: 対象はお金を借りた人で、トレーダーやトレードではありません。睡眠は、住んでいる場所から推し量ったもので、本人がその日に何時間寝たかではありません。また、ある人の寝不足が、その人の判断をどれだけ変えるかを示すものでもありません。
トレーダーの研究はあるが、睡眠の研究ではない
トレーダーの体の状態と成績を調べた研究としては、2008年の Coates と Herbert の研究がよく知られています。[4] ロンドンの金融会社の取引フロアの男性トレーダー17人の唾液を、8営業日続けて朝11時と午後4時に取り、ホルモンを測りました。結びつき(相関)を見た研究で、原因と結果を示したものではありません。朝のテストステロン(男性ホルモンの一種)が自分のいつもより高い日は、その日の損益が高い傾向があり、17人全体で比べると、朝の値が高い日のほうが、その後の損益がはっきり大きかったと報告されています。コルチゾール(ストレスで増えるホルモン)は、損益のぶれの大きさや、市場の値動きの大きさと一緒に動いていました。
ただし、この研究は睡眠を調べていません。17人・8日間と短い研究です。著者たちも、値動きが小さい時期で、影響の大きさは分かりにくいと書いています。ここで紹介したのは、「トレーダーを調べた研究があっても、睡眠のことまでは言えない」ことを示すためです。
まとめると、言えること・言えないこと
表は横にずらして見られます →
| 研究 | 言えること | 言えないこと |
|---|---|---|
| 一晩眠らない実験 2つ[1][2] | 選択のしかたが変わることがある。損を嫌う度合いは、どちらでも変わらなかった | 危険を取りすぎるかどうかは一致しない。毎日の短い睡眠・トレードは調べていない |
| 借り入れのデータ[3] | 睡眠が足りない条件で、朝の借り入れの返せなくなる危険が高かった | トレーダーではない。一人ひとりの睡眠は測っていない |
| ロンドンのトレーダー[4] | 朝のホルモンとその日の損益に結びつきがあった | 睡眠の研究ではない。原因と結果は示していない |
つまり、「寝不足の日はロットが大きくなる」「寝不足だと衝動的になる」が自分に当てはまるかは、研究からは決められません。当てはまる人もいれば、当てはまらない人もいるかもしれません。そこで、自分の記録で確かめます。
自分の記録で確かめる
やることは2つです。取引のたびに疲れや眠気があったかを残すこと。そして、何週間か分を、疲れがあった取引とそうでない取引に分けて比べることです。
- 付ける: 取引のすぐ後に、「疲れ・眠気」があったかを付けます。結果を知ってから思い出すと、負けた取引ほど「疲れていた気がする」となりやすいので、損益を見る前に付けるのが目安です。
- 分ける: 2〜4週間たったら、疲れ・眠気が「あった」取引と「なかった」取引に分けます。
- 比べる: それぞれで、ルールを破った割合、いつもより大きなロットの回数、1日の損失の上限に触れた日を数えます。損益の合計より、ルールや上限のほうを見ます。損益は相場の運の影響が大きいからです。
数え方の例です。
表は横にずらして見られます →
| 疲れ・眠気あり | なし | |
|---|---|---|
| 取引の回数 | 8 | 24 |
| ルールを破った回数 | 4(50%) | 5(約21%) |
| いつもより大きなロット | 2 | 1 |
| 1日の損失の上限に触れた日 | 1 | 1 |
(作った数字の例です。この割合が普通という意味ではありません。)
この例では、疲れがあった取引のほうが、ルールを破った割合が高く見えます。ただ、8回は少なく、偶然で大きくぶれます(回数の目安は勝率は何回で信じていいかにあります)。また、疲れていた日は、夜遅い時間の取引や、大きな値動きの日と重なっていたのかもしれません。差が見えても、「疲れが原因」と決めず、「疲れがある日は、自分はルールを外れやすいかもしれない」という仮の見方として持っておき、さらに記録を続けます。
疲れた日の上限を決めたい時は、1日の損失上限の計算で、自分で決めた上限を金額にできます。
差がはっきりしてきたら、たとえば「疲れ・眠気がある時は、入る前に一度ルールを読み返す」のように、自分で決めた手順を1つ足すことができます。ルールを守れない場面の見方はトレードのルールを守れない時、上限の決め方は1日の損失上限の決め方、気持ちを言葉で残す研究は感情を言葉にして記録すると何が変わるかにあります。
Tiltnote では、トレードごとの「このトレードは?」で『疲れ・眠気』を選べます。最初の選択肢に無い時は、設定の「「このトレードは?」の選択肢」にある「よく使われる項目」から加えられ、自分で項目を追加することもできます。「ルールを守れましたか」と一緒に付けておくと、後から2つを並べて見返せます。
このページについて
この記事は、トレードの売買の勧めや投資の助言ではなく、医療の助言でもありません。よく眠れば勝てる、という意味でもありません。紹介した研究のうち、睡眠を調べたものは、トレーダーを対象にしていません。眠れない・疲れが取れないといった悩みが続く時は、医療機関に相談してください。お金やトレードのことでつらい時や、やめたくてもやめられないと感じる時は、ひとりで抱えず、身近な人や、お住まいの地域の相談窓口に相談してください。
参考文献
- Venkatraman, V., Huettel, S. A., Chuah, L. Y. M., Payne, J. W., & Chee, M. W. L. (2011). Sleep deprivation biases the neural mechanisms underlying economic preferences. Journal of Neuroscience, 31(10), 3712–3718. https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.4407-10.2011
- Mullette-Gillman, O. A., Kurnianingsih, Y. A., & Liu, J. C. J. (2015). Sleep deprivation alters choice strategy without altering uncertainty or loss aversion preferences. Frontiers in Neuroscience, 9, 352. https://doi.org/10.3389/fnins.2015.00352
- Freed, P. G. (2026). Insufficient sleep and intraday financial decision making. Management Science(2026年6月にオンラインで公開). https://doi.org/10.1287/mnsc.2023.04031
- Coates, J. M., & Herbert, J. (2008). Endogenous steroids and financial risk taking on a London trading floor. Proceedings of the National Academy of Sciences, 105(16), 6167–6172. https://doi.org/10.1073/pnas.0704025105