先に要点
- 人は、同じ判断でも、結果が良かった時のほうを「良い判断だった」と評価しやすいことが、実験で報告されています(結果バイアス、outcome bias)。[1]
- 1回の勝ち負けは、運の影響を受けます。1回の結果だけでは、その判断が良かったかどうかは、あまり分かりません。
- そこで、損益とは別に「ルールを守れたか」を記録し、2つを組み合わせた4つのますで振り返ります。損益だけでは見えなくなる「破って勝った」取引を拾えるのが、記録の強みです。
同じ判断でも、結果が良いと高く評価される(研究)
1988年に、Baron と Hershey は、他の人が不確かな状況で下した判断を評価してもらう実験を、5つ報告しました。[1] 判断の内容は、医療のことか、お金の賭けでした。参加者は、判断した人と同じ情報を持っていることを分かったうえで評価しました。
実験1の例: アメリカの大学生20人が、15件の医療の判断を、−3(間違っていて弁解できない)から+3(はっきり正しい)の7段階で評価しました。たとえば、心臓の手術をすれば痛みが取れて長生きが見込めるが、手術そのもので8%の人が亡くなる、という場面で、医師が手術を決めた判断です。同じ説明のまま、「手術は成功した」版と「失敗して亡くなった」版を用意しました。
分かったこと: 結果が成功の版は、対応する失敗の版より、平均で0.70高く評価されました。実験の最後に聞いた8人のうち7人は「評価に結果を入れるべきではない」と答えましたが、その7人でも、成功の版を高く評価する差が見られました。お金の賭けの実験でも、結果が良かった判断のほうが高く評価されました。
この実験1は、2023年に、オンラインで集めた692人で改めて行われ(追試)、同じ向きの結果が報告されています(−3〜+3の評価で、成功の版は平均1.78、失敗の版は平均0.68)。[2]
結果が役に立つ時もある: 元の論文の著者たちは、結果がまったく役に立たないとは言っていません。似た判断が何度も続く時は、結果を集めることで、確率について学べると書いています。[1] トレードに置きかえると、1回の勝ち負けで判断を決めるのではなく、たくさんの記録をまとめて見る、ということです。
言えないこと:
- 実験の参加者は大学生や、オンラインで集めた人たちで、評価したのは医療の判断や賭けの場面です。トレーダーやトレードを調べた研究ではありません。
- 「運で勝つとルール違反が増える」ことを示した研究ではありません。この記事の最初の悩みは、研究の結果ではなく、よく聞く悩みとして書いています。
- 評価がずれることは示されていますが、それで実際の行動やお金の結果がどう変わるかは、この実験では調べていません。
「ルールを守れたか」×勝ち負けの4つのます
損益(勝ったか負けたか)と、ルールを守れたか。この2つを組み合わせると、取引は4つに分かれます。ここでの「ルール」は、入る前に自分で決めた条件(入る条件・損切り・ロットなど)のことです。ルールの中身は、この記事では決めません。
表は横にずらして見られます →
| 勝った | 負けた | |
|---|---|---|
| ルールを守れた | 守って勝ち 手順通りで、結果も良かった。勝ちを自分の腕だけのおかげと決めず、他のますと一緒に回数で見る。 | 守って負け ルールの範囲の負け。1回の負けで、ルールや手法を変えない。何回分かをまとめて見る。 |
| ルールを破った | 破って勝ち 一番見落としやすいます。お金は増えたが、決めた条件から外れた。「次もやっていい」の根拠にしない。印を付けて、何を外れたかを1行。 | 破って負け 気づきやすいます。自分を責めすぎず、何を外れたか、その時の気持ちを1行。 |
なぜ「破って勝った」を拾うのか
損益だけを見ると、「破って勝った」取引は、勝ちの中に混ざって見えなくなります。むしろ、結果が良かったぶん、上の研究のように「良い判断だった」と感じやすい取引です。その感じ方のまま次も同じことをすると、ルールを外れることに慣れてしまうかもしれません。
反対に、「守って負け」は、結果が悪いぶん、判断まで悪かったように感じやすい取引です。ルール通りの負けが続いて、ルールそのものを疑いたくなる時もあります。ただ、少ない回数の勝ち負けは偶然で大きくぶれます。ルールを見直すかどうかは、ある程度の回数がたまってから考えます(回数の目安は勝率は何回で信じていいかにあります)。
どちらも、取引のその時に「ルールを守れたか」を書いておけば、後から分けて見られます。後になってから思い出すと、結果を知っているぶん、記憶が結果に引っぱられるおそれがあります。だから、取引のすぐ後に、損益とは別に書いておきます。
数え方の例
1〜2週間分の記録を、4つのますに分けて回数を数えます。
表は横にずらして見られます →
| ます | 回数 | 見ること |
|---|---|---|
| 守って勝ち | 6 | 守った取引全体(12回)の中の1つとして見る |
| 守って負け | 6 | ルールの範囲の負けか(損切りの幅・ロットは決めた通りか) |
| 破って勝ち | 3 | 何を外れたか。同じ外れ方が続いていないか |
| 破って負け | 5 | 何を外れたか。その時の気持ち |
(作った数字の例です。この割合が普通という意味ではありません。)
この例では、ルールを破った取引が20回中8回あり、そのうち3回は勝っています。損益だけを見ていると、この3回は「うまくいった取引」として残ります。4つのますに分けると、「8回ルールを外れた」という、損益とは別の事実が見えます。
回数が少ないうちは、どのますの数も偶然でぶれます。結論は急がず、何週間か続けて見てください。月ごとのまとめ方は1か月のトレードの振り返り方、ルールを守れない場面と記録のしかたはトレードのルールを守れない時、日記の書き方の全体はトレード日記の書き方にあります。
まず表計算で数えたい時は、無料のトレード日記のひな形に、ルールを守れたかを書く列があります。
Tiltnote では、トレードごとに「ルールを守れましたか」に「守れた」「守れなかった」を付けられ、ふりかえりの画面でルールを守れた割合などを見られます。
このページについて
この記事は、トレードの売買の勧めや投資の助言ではありません。ルールを守れば勝てる、という意味でもありません。ルールを守っても負けることはあり、ルールそのものが自分に合っているかは、ご自身の記録で確かめる必要があります。紹介した研究は、トレーダーを対象にしたものではありません。お金やトレードのことでつらい時や、やめたくてもやめられないと感じる時は、ひとりで抱えず、身近な人や、お住まいの地域の相談窓口に相談してください。
参考文献
- Baron, J., & Hershey, J. C. (1988). Outcome bias in decision evaluation. Journal of Personality and Social Psychology, 54(4), 569–579. https://doi.org/10.1037/0022-3514.54.4.569
- Aiyer, S., Kam, H. C., Ng, K. Y., Young, N. A., Shi, J., & Feldman, G. (2023). Outcomes affect evaluations of decision quality: Replication and extensions of Baron and Hershey’s (1988) outcome bias experiment 1. International Review of Social Psychology, 36(1), 12. https://doi.org/10.5334/irsp.751