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バックテストで「勝てそう」に見える時の落とし穴

過去の値動きで売買の決まりを試したら、右肩上がりの線が出た。そんな時こそ、まず測り方を疑ってみる価値があります。費用の引き方や、足の中の値動きの扱い、試した数の数え方を間違えると、本当はない「勝ち」が見えることがあるからです。この記事では、よくある4つの落とし穴を、作った例の図と研究で見ていきます。どの手法を使うべきかは、この記事では決めません。

公開 2026年10月17日書いた人: Tiltnote 運営代表 奥村 健児(FX の経験があります)

ひとことで言うと

バックテストの「勝てそう」は、測り方の間違いでも作れてしまいます。費用を引いたか、足の中の順番をどう扱ったか、何通り試したか、条件を後から足していないか。この4つを確かめると、ない物が見えにくくなります。

私たち Tiltnote でも、売買の決まりを過去の値動きで測ることがあります。その中には、費用を引く前はプラスに見えたのに、引いたら何も残らなかった例や、1分足で測ると良く見えたのに、もっと細かい値動き(ティック。値段が1回動くごとの記録)で測り直すと消えた例がありました。どれも、決まりそのものより測り方が「勝ち」を作っていました。ここでは、そうした落とし穴を順に見ていきます。

1. 費用を引き忘れると、勝ちに見える

スプレッド・手数料・スワップを引かずに計算すると、1回あたりわずかにプラスの決まりは、回数を重ねるほどきれいな右肩上がりに見えます。ところが、1回あたりの差が小さい決まりほど、費用で損益の向きが変わります。

1回あたりわずかにプラスの決まりで600回取引した作った例。費用を引く前は+341pipsの右肩上がり、1回1pipsの費用を引いた後は−259pipsの右肩下がり。
作った例(乱数)。1回あたり平均わずかにプラスの決まりを600回。費用を引く前は +341pips でしたが、1回1pipsの費用を引くと、600回 × 1pips = 600pips が減って −259pips になりました。

研究でも、費用の大きさが結論を変えることが示されています。ダウ平均の1897〜2011年の日々の値段で、テクニカルの売買の決まりを調べ直した論文では、決まりを選んだ期間の中でさえ、低い取引費用を入れるだけで成績が完全に打ち消されたと報告されています。[1] 米国の株価指数での研究で、FX や他の国の市場で同じ数字になるとは限りません。ただ、取引のたびに費用がかかる点は FX でも変わらないので、自分の決まりでも費用を引いて確かめる価値があります。

費用を引く時は、次の点にも気をつけます。

1か月分の費用の数え方は、取引の費用を1か月分数えるにまとめています。

2. 足の中の順番が分からないと、見せかけの勝ちが出る

ローソク足が持っているのは、始値・高値・安値・終値の4つの値段だけです。1本の足の中で、利確の値段と損切りの値段の両方に届いていた時、どちらに先に届いたのかは、足からは分かりません。

たとえば MT5 のストラテジーテスター(MT5 に付いている、過去の値動きで自動売買を試す機能)には、1分足から値動きを作るモードがあります。「1分足OHLC」(OHLC は始値・高値・安値・終値の頭文字)のモードでは、足の中のティックの数が4より多ければ、始値・高値・安値・終値の4つの値段だけが作られます。ヘルプでは、ブローカーの実際のティックを使うモードが、もっとも実際の条件に近いと説明されています。[2]

利確と損切りが近い作った例。両方に届いた足を利確が先とみなすと1回あたり平均+0.11R、損切りが先とみなすと−0.11R、ティックで測った実際は±0.00R。
作った例(乱数)。実力のない決まりで、利確と損切りを同じ幅(1本の足の値動きと同じくらいの近さ)に置きました。損益は R で表します(1R = 損切りの幅。損切りに当たると −1R、同じ幅の利確なら +1R)。約11%の取引が「両方に届いた足」で終わり、その足をどちらとみなすかで、平均は +0.11R から −0.11R まで変わりました。細かい値動きで測った実際は ±0 です。

実力のない決まりでも、「両方に届いた足では利確が先」と数えるだけで、勝てそうな数字が出ます。利確や損切りの幅が足の値動きに比べて狭いほど、この差は大きくなります。

順番が分からない足を外すと、かえって偏ることがある

「順番が分からない足が出た取引は、数えずに外す」のは公平に見えます。ただ、外れやすさが、勝つ取引と負ける取引で違うと、残った取引が偏ります。たとえば利益を伸ばしながら決済の値段を動かす決まりでは、勝つ取引ほど長く持って多くの足を通るので、順番の分からない足に当たりやすくなります。すると、勝ちのほうが外されやすくなります。決まりの形によっては、逆に負けのほうが外されやすくなることもあります。私たちの検証でも、外す方法で数えたせいで、おかしな結果が出たことがありました。(上の図のような、利確と損切りが同じ幅の単純な例では、外しても偏りはほとんど出ませんでした。偏るかどうかは決まりの形によります。)

外す代わりに、次のように測ると安全です。

3. たくさん試して一番良い物を選ぶと、偶然の当たりを選びやすい

設定や決まりを何通りも試して、一番成績の良い物を選ぶ。よくあるやり方ですが、試す数が増えるほど、実力がなくても一番の成績は良くなります。

勝率50%の実力のない決まりを試す数を1から1000まで増やし、200回で一番良かった物を選んだ作った例。選んだ期間の勝率は49.8%から61.4%まで上がるが、使っていない次の200回ではどれも約50%。
作った例(乱数)。どの決まりも勝率50%のコイン投げです。試す数を1から1000まで増やし、200回の成績で一番を選ぶと、選んだ期間の勝率は 49.8% から 61.4% まで上がりました。同じ決まりを、選ぶのに使っていない次の200回で測ると、どれも約50%のままです。

研究で示されていることを3つ挙げます。

対処は、次の3つです。

4. 後から条件を足すほど、過去にだけ合う形になる

負けた取引を見返して、「この時間は外そう」「この曜日は休もう」「この値の時だけ入ろう」と条件を足していくと、過去の成績はどんどん良くなります。けれど、それぞれの条件は過去の負けを見てから決めた物なので、過去の成績が良くなるのは、ある意味で当然です。

条件を足す時は、足した前と後の取引の数を並べ、足した条件も「1回試した」と数えます。理由は、結果を見る前に書いておきます。たとえば「この時間はスプレッドが広がるから外す」なら、その時間のスプレッドを実際に測って確かめられます。

5. 自分で測る時のチェックリスト

手法が悪いという話ではなく、測り方をそろえれば、自分の手法の本当の姿が見える、という話です。どの手法を使うかは、ご自身で決めることです。ここでは、バックテストの結果を見る時に確かめたいことを短くまとめます。

測る前と後に確かめること
  • 費用: スプレッド・手数料・スワップを、入りと出の両方で引いたか。狙う時刻のスプレッドで引いたか
  • 足の中の順番: 利確と損切りの両方に届いた足を、どう数えたか。有利・不利の両方で計算したか
  • 試した数: 捨てた物も含めて何通り試したか、書いてあるか
  • 基準: 合格の基準を、結果を見る前に書いたか
  • 使っていない期間: 選ぶのに使わなかった期間の結果も並べたか。そこを何回見たか
  • 後から足した条件: 条件ごとに、足す前と後の取引の数と、結果を見る前に書いた理由があるか
  • 取引の数: 少なすぎないか。利益の大半が少数の取引から来ていないか
  • 強すぎる結果: 費用の何倍もの利益が楽に出ている時は、まず自分の集計の仕方を疑ったか

本番を始めたら、本番の結果も同じ物差し(費用を引いた後の損益)で並べます。損益の一覧は取引履歴の統計で、勝率・平均の損益・最長の連敗にまとめられます。バックテストと本番の数字がずれた時、上のどの項目でずれたのかを探す手がかりになります。

参考文献

  1. Bajgrowicz, P., & Scaillet, O. (2012). Technical trading revisited: False discoveries, persistence tests, and transaction costs. Journal of Financial Economics, 106(3), 473–491. https://doi.org/10.1016/j.jfineco.2012.06.001
  2. MetaQuotes. Real and Generated Ticks(MetaTrader 5 ヘルプ). https://www.metatrader5.com/en/terminal/help/algotrading/tick_generation
  3. Bailey, D. H., Borwein, J. M., López de Prado, M., & Zhu, Q. J. (2014). Pseudo-Mathematics and Financial Charlatanism: The Effects of Backtest Overfitting on Out-of-Sample Performance. Notices of the American Mathematical Society, 61(5), 458. https://doi.org/10.1090/noti1105(著者の公開版: https://www.davidhbailey.com/dhbpapers/backtest-pseudo.pdf)
  4. Sullivan, R., Timmermann, A., & White, H. (1999). Data-Snooping, Technical Trading Rule Performance, and the Bootstrap. The Journal of Finance, 54(5), 1647–1691. https://doi.org/10.1111/0022-1082.00163(論文の前の版: https://www.fmg.ac.uk/sites/default/files/2020-11/dp303.pdf)
  5. Harvey, C. R., & Liu, Y. (2015). Backtesting. The Journal of Portfolio Management, 42(1), 13–28. https://doi.org/10.3905/jpm.2015.42.1.013(著者の公開版: https://people.duke.edu/~charvey/Research/Published_Papers/P120_Backtesting.PDF)
  6. MetaQuotes. Strategy Testing(MetaTrader 5 ヘルプ). https://www.metatrader5.com/en/terminal/help/algotrading/testing

この記事で使えるツール

バックテストと本番を、同じ物差しで残す。

Tiltnote は、手入力の記録なら無料で使えるトレード日記です。トレードごとに手法の名前・「そのときの気持ち」・「ルールを守れたか」・メモを残せます。費用込みの損益で本番の記録が残るので、手元のバックテストの数字と見比べる材料になります。

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更新日 2026年10月20日 · 運営: Tiltnote 運営代表 奥村 健児 · このサイトについて