通貨ペアは、2つの通貨の組
USD/JPY(ドル円)なら、左の USD が「基軸通貨」、右の JPY が「決済通貨」です。買うと、左の通貨を買って、右の通貨を売ったことになります。売ると、その逆です。
- USD/JPY の買い: ドルを買って、円を売る
- EUR/JPY の買い: ユーロを買って、円を売る
- EUR/USD の買い: ユーロを買って、ドルを売る
- GBP/USD の買い: ポンドを買って、ドルを売る
名前のちがう通貨ペアを持っていても、片方の通貨が同じなら、その通貨を重ねて売り買いしていることがあります。
米ドルは、多くの取引に入っています。国際決済銀行(BIS)の調査では、2025年4月の世界の外国為替の取引のうち、89.2%で、売りか買いのどちらかが米ドルでした。取引の多い通貨ペアの上位10組は、すべて米ドルを含んでいました。[1] 同じ調査で、円は16.8% の取引に入っていました。[1](1つの取引に通貨が2つ入るので、通貨ごとの割合を足すと200%になります。数字は 2026年6月に出た確定値です。)
通貨ごとに足すと、何が見えるか
持っている全部のポジションを、通貨ごとの「買い(+)」と「売り(−)」に分けて、同じ通貨どうしを足します。
買いの時: 左の通貨 = +(ロット × 1ロットの通貨量)、右の通貨 = −(ロット × 1ロットの通貨量 × 入った値段)
売りの時: 符号が逆になります
下の例は 1ロット = 10万通貨で計算しています。1ロットの通貨量は業者によって違うので、自分の業者の1ロットの通貨量に置き換えてください(日本の業者には、1万通貨・1,000通貨のところも多くあります)。
計算の例: ドル円・ユーロ円・ポンド円を、全部買う
円口座で、1ロット = 10万通貨、それぞれ 0.1 ロット(1万通貨)ずつ買った例です(作った数字です)。
- USD/JPY を 150.00 で買い: USD +10,000、JPY −1,500,000
- EUR/JPY を 162.00 で買い: EUR +10,000、JPY −1,620,000
- GBP/JPY を 190.50 で買い: GBP +10,000、JPY −1,905,000
円の合計: −1,500,000 − 1,620,000 − 1,905,000 = −5,025,000円
3つの通貨ペアに分けていても、円については、約500万円分の円を売っているのと同じ形です。円が3つの通貨に対して同時に高くなると、3つとも損の向きに動きます。
円に直した値(USD は 150.00、EUR は 162.00、GBP は 190.50 で換算)を全部足すと、0 になります。入った時点では、買った通貨と売った通貨の額は同じだからです。0 にならない時は、計算のどこかが間違っています。
買いと売りが混ざっている時: ドル円を買い、ユーロ円を売る
向きが違うと、同じ通貨が打ち消し合うことがあります。円口座で、USD/JPY を 150.00 で 0.1ロット買い、EUR/JPY を 162.00 で 0.1ロット売った例です(作った数字です)。
- USD/JPY の買い: USD +10,000、JPY −1,500,000
- EUR/JPY の売り: EUR −10,000、JPY +1,620,000
円の合計: −1,500,000 + 1,620,000 = +120,000円
円に直すと USD +1,500,000円、EUR −1,620,000円、JPY +120,000円 で、足すと 1,500,000 − 1,620,000 + 120,000 = 0 です(検算)。円はほとんど打ち消し合い、残るのは「ドルを買って、ユーロを売る」形です。円のペアを2つ持っていても、中身はユーロドルの売りに近い、ということになります。
ユーロドルとポンドドルを同時に買う
円を含まないペアでも同じです。ドル口座で、EUR/USD を 1.0800、GBP/USD を 1.2700 で、0.5 ロット(5万通貨)ずつ買った例です(作った数字です)。
- EUR/USD の買い: EUR +50,000、USD −54,000
- GBP/USD の買い: GBP +50,000、USD −63,500
米ドルの合計: −54,000 − 63,500 = −117,500ドル
2つとも「米ドルを売っている」ので、米ドルが高くなると、2つとも損の向きに動きます。ここに USD/CAD の買い(0.5ロット・1.3600)を足すと、USD +50,000、CAD −68,000 が加わり、米ドルの合計は −67,500ドル になります。米ドルの分は一部が打ち消し合う向きになりますが、ユーロ・ポンド・カナダドルのそれぞれの動きは残ります。
口座がユーロ・ポンド・豪ドルなどでも、通貨ごとの合計は同じで、最後に口座の通貨に直す所だけが変わります。
動きが似ているペアは、損切りが同時に起きやすい
2つの値動きがどれくらい同じ向きに動くかを表す数字に、相関係数があります。+1 に近いほど同じ向き、0 に近いほど関係が薄く、−1 に近いほど逆の向きです。
EUR/USD と GBP/USD は、どちらも「ドルに対する値段」なので、同じ向きに動く日が多いことが知られています。1986〜2011年の日ごとのデータを調べた研究では、ユーロ(導入前はドイツ・マルク)・ポンド・スイスフラン・円の対ドルの動きは、どれも同じ向きの関係(正の相関)があり、ヨーロッパの通貨どうしで特に強い、とされています。[2] また、対ドルの為替の動きには、多くの通貨に共通する部分があるとする研究もあります。その研究では、多くの通貨に共通する2つの要因で、月ごとの為替の動きの 18〜80% が説明できた、とされています(通貨によって違います)。[5]
なお、研究[2]に入っているのはユーロ(マルク)・ポンド・スイスフラン・円の4つで、豪ドルは入っていません。豪ドルなど資源国の通貨と呼ばれる通貨は、ユーロやポンドと動き方が違うことがあります(この記事では数字で確かめていません)。
同じ向きに強く動く2つを同じ向きで持つと、片方が損切りになる時、もう片方も損切りになりやすくなります。分けたつもりでも、1つの大きなポジションに近い動きをすることがあります。
相関は、時期で変わる
相関は決まった数字ではありません。上の研究では、ユーロとポンドの対ドルの動きの相関は、1994〜1998年(ユーロ導入前で、ドイツ・マルクの値)が 0.59、1999年〜2002年2月が 0.61、2002年3月〜2007年11月が 0.73 と、時期で違いました(研究の中で、ほかの研究と期間をそろえて出した値です)。[2] ただし、論文全体の結論は、ユーロ導入後のほうが平均では動きのつながりが小さい、というものです。[2] 同じ研究では、ユーロ導入後の期間(1999〜2011年)に、組によって、相関が −0.459 から 0.983 の間で動き、景気の後退や金融危機などの時期に高くなる傾向があった、とされています。[2] 米国の連邦準備制度理事会(FRB)の研究者の論文でも、通貨どうしの動きのつながりは時間とともに変わる、という結果が出ています。[3]
相関の数字を見る時は、次のことにも気をつけてください。
- どの期間で計算したかで値が変わります。ツールやサイトで見た相関は、その期間の値です。
- 値動きが荒い時期は、ふつうの相関の数字が高めに出やすい、という指摘があります(株式の市場についての研究です)。[4]
- 相関が低かった組でも、ある日まとめて同じ向きに動くことはあります。
ρ(ロー)は相関係数のことです。この箱は飛ばしても先は読めます。
2つのポジションの1日の損益の揺れ(標準偏差。ふだんの1日の揺れの大きさ)が、それぞれ 100ドル だとします。2つを同じ向きで持つ時、合計の揺れは、相関 ρ を使って次の式で出ます。
合計の揺れ = √(100² + 100² + 2 × ρ × 100 × 100)
ρ = 0 なら約141ドル、ρ = 0.6 なら約179ドル、ρ = 1 なら200ドルです。相関が高いほど、合計の揺れは1つのポジションに近づきます(計算上の話です)。
片方を買い・片方を売りで持つ時は、相関の向き(符号)が逆に効き、式の「+ 2 × ρ」が「− 2 × ρ」になります。ρ = 0.6 なら約89ドルで、相関が高いほど合計の揺れは小さくなります。
損切りまでの損失を、全部足して見る
1つずつのポジションでは損切りの額を決めていても、同時に持っている全部を足すと、思ったより大きいことがあります。
1つの損切りの額 = ロット × 1ロットの通貨量 × 損切りまでの幅 × 1pip の大きさ(決済通貨)→ 口座の通貨に換算
- ドル円・ユーロ円・ポンド円の例(0.1ロットずつ、損切りまで50pipsずつ): 1つ 10,000 × 50 × 0.01 = 5,000円。3つで 15,000円
- ユーロドル・ポンドドルの例(0.5ロットずつ、損切りまで30pipsずつ): 1つ 50,000 × 30 × 0.0001 = 150ドル。2つで 300ドル
ユーロドルのように、損切りの額が円ではなくドルで出るペアは、最後に円に直します。円口座でユーロドルを 0.5ロット持ち、損切りまで30pipsなら、損切りの額は 150ドル です。USD/JPY が 150.00 なら、150 × 150.00 = 22,500円 です(作った数字です。実際に損切りになった時の USD/JPY で、円の額は少し変わります)。
この合計は、全部が、決めた値段ちょうどで損切りになった時の値です。週明けの窓や指標の発表の時などは、決めた値段より不利な値段で決済されることがあります(窓と損切り・スリッページとは)。スプレッド・手数料・スワップも入れていません。損切りを置いていないポジションは、この足し算に入れられません。
1回の損失の額からロットを出す計算はロット計算で、1pip の金額はpips の計算で確かめられます。1日の損失の上限の考え方は1日の損失の上限の決め方にあります。持っているポジションを通貨ごとに足した合計と、全部が損切りになった時の合計の損失は、通貨ごとの合計ポジションで計算できます。
記録で確かめる(決めるのはご自身)
同じ通貨を重ねて持つかどうか、どの組み合わせで持つかは、この記事では決めません。重なりがあること自体が良い・悪いではなく、自分が今どの通貨をどれだけ持っているかを知っておくための見方です。
新しくポジションを持つ前に、次のことをメモしておくと、後から見返せます。
- 同時に持っているほかのポジション(ペア・向き・ロット)
- あなたの合計がいちばん大きい通貨(買い・売りを問わず額で見て。通貨の良し悪しではない)と、その額
- 全部が損切りになった時の合計の損失
- そのポジションを足した理由と、その時の気持ち
何回か記録すると、「同じ日に複数の損切りが重なった回」がどれくらいあったかを、自分の記録で数えられます。2つのポジションの数え方(ネッティングとヘッジ)は両建てとはに、損益の計算のしかたはpips・ロットと損益の計算にまとめています。
参考文献
- Bank for International Settlements. Triennial Central Bank Survey of foreign exchange and OTC derivatives markets in 2025: OTC foreign exchange turnover in April 2025(2025年9月30日公表の速報). https://www.bis.org/statistics/rpfx25_fx.htm(本文の数字は、この速報の文から取っています。確定値は 2026年6月に公表されています: 調査のページ)
- Antonakakis, N. Exchange return co-movements and volatility spillovers before and after the introduction of euro. Journal of International Financial Markets, Institutions and Money 22(5), 1091–1109(2012年12月). https://doi.org/10.1016/j.intfin.2012.05.009(著者のワーキングペーパー版: FIW Working Paper No. 80. https://www.fiw.ac.at/wp-content/uploads/2023/02/N_080-Antonakakis.pdf)
- Benediktsdóttir, S., Scotti, C. Exchange Rates Dependence: What Drives It? Board of Governors of the Federal Reserve System, International Finance Discussion Papers No. 969(2009). https://www.federalreserve.gov/pubs/ifdp/2009/969/ifdp969.htm
- Forbes, K., Rigobon, R. No Contagion, Only Interdependence: Measuring Stock Market Comovements. Journal of Finance 57(5), 2223–2261(2002). NBER Working Paper 7267. https://www.nber.org/papers/w7267
- Verdelhan, A. The Share of Systematic Variation in Bilateral Exchange Rates. Journal of Finance 73(1), 375–418(2018). https://dspace.mit.edu/handle/1721.1/122354